Type& 2022 Day 1 - Session 1 後半

機能×ブランド いすゞ専用カスタマイズフォント

いすゞ自動車株式会社
Isuzu Design Center プロダクト第一グループ
杉浦 康

Type& 2022 Day 1、Session 1の後半は、いすゞ自動車株式会社の杉浦プレゼンテーションです。杉浦氏は、いすゞ自動車株式会社のデザイン部門、Isuzu Design Center で、トラック・バスのデザインを担当するプロダクト第一グループに所属。主にグラフィック・デザインの要素が強いアイテムを担当するほか、社内各部の様々な情報発信やブランド・ビジュアルに関わる様々な分野のデザインをサポートするコミュニケーション・デザイン業務も担当されています。

いすゞ自動車株式会社は、世界に広がる商用車のグローバルブランド。1916年創業の日本最古の現存する自動車メーカーです。主にトラック、バス、産業用エンジンの開発、生産、販売を行っており、小型トラックやピックアップトラックを中心に150か国以上で販売し、2021年には45か国でクラス別シェアNo.1を獲得しています。

Isuzu ANとShorai Sansについて

いすゞ自動車のカスタマイズフォントとして作られたのは、「Isuzu AN」という欧文書体4ウェイト(コンデンス体4ウェイトも制作)。それに合わせる和文書体には、Monotypeが制作した和文フォント「Shorai Sans」の中から4ウェイトが選ばれました。このセッションでは、カスタマイズフォント導入に至った経緯とその制作プロセスを紹介します。

書体統一を考えた背景

書体統一を考えた背景として、まず挙げられたのがビジネスのグローバル化の影響。多言語展開、和文英文併記の機会が増え、日本人が無意識に選んでいる英字(特に和文書体の英字)は本当に妥当か考える必要がありました。そうした観点から、書体選びでも海外を意識した客観的な視点が求められるように。異なる言語への展開、異なる言語同士の統一感に配慮する必要がありました。

2つ目は、デジタルコンテンツの一般化への影響。車載機器のディスプレイなどでは多種多様な情報コンテンツに対応することが求められています。限られた表示面積に小さな文字が発光した状態で表示されるため、印刷媒体中心の時代と求められるものが変わってきていました。判読性重視のスマートな書体が社会のスタンダードになってきており、これからは多様な情報表示のための書体を考えていかなければなりませんでした。

3つ目は、車載ディスプレイの進化。車内に大型のディスプレイが設置されているのが当たり前になり、現在は大型化、高機能化が進んでいる過渡期にあります。ディスプレイに情報が集約されていくと、システムへのフォントデータの埋め込みが必要になります。

4つ目は、商用車固有の事情。トラックといっても小さなものから大きなものまであり、用途も様々。ニーズが多様で、複雑な機能を多く取り付けた結果、商用車は少量多種生産にならざるを得ません。また、乗用車に比べると量産効果が出しにくいため、車型や年代を超えて、なるべく部品を共用化する必要もありました。さらに、モデルチェンジのサイクルは長く、個々の仕様のアップデートや仕様追加が多いこと、機能が複雑なので、物理スイッチや文字表示への依存度が高いことから、アナログ時代まで含み、各時代の担当者が選択してきた様々な書体が入り混じって使われていました。デジタルへの移行を機に、書体の統一を進めたいと考えました。

他社事例の分析

以下は、他社で使われている書体を調べた結果です。

自動車専用に研究開発された書体「ドライバーズ・フォント」(Denso × Type Project)

  • 限られた表示サイズ、文字数が多い状況に対応する、コンパクトな骨格
  • 見た瞬間に認知でき、印象に残りやすい、メリハリのあるディテール
  • 漢字、カタカナ、ひらがな、アルファベットなど、異種文字混在時の調和がコンセプト。基本的な考え方は近年の書体トレンドと一致。

汎用フォントによる統一の例「AXIS Font」(Type Project)

ドライバーズ・フォントと同じ頃に開発された汎用書体。コンセプトにも共通性が感じられる。多数の企業がメディア用フォントとして採用。いすゞ自動車のブランドコミュニケーション施設「いすゞプラザ」でも標準フォントとして使用。

以下は、各社専用フォントによる統一の例です。

  • SST(Sony)
  • Mazda type(Mazda)
  • Nissan AG(Nissan)
  • Lexusロダン(Lexus)
  • Denso TP(Denso)

企業の書体選択には2つの考え方があると分析しました。

  1. トレンドや機能に最適化
  2. ブランドアイデンティティに最適化

トレンドや機能に最適化する場合には、市販されている現代的でスタンダードなフォントを選択し、幅広く活用。まったくブランドイメージが異なる企業や直接的なライバル企業が同じフォントを採用している事例も多く、他ブランドとの差別化や独自性の主張が目的ではありません。視点を変えると、現代的なスタンダードなフォントには、どのようなブランドと組み合わせても違和感がない高い普遍性があるとも言えます。

ブランドアイデンティティに最適化する場合は、ブランドのイメージとリンクするニュアンスのある書体を専用に開発し、各種情報媒体などに活用。機能性が求められる表示(製品の操作系など)とは分けて考えている場合も多いです。このように、目的や使用範囲により書体に求める要素も変わるということがわかりました。

いすゞ自動車の標準書体は、モリサワの「新ゴ」。ビジュアルアイデンティティ規定で「標準書体」と定義され、社名表記や名刺などで使用されています。安定感のある整然としたイメージの書体で、いすゞ自動車のブランド感、製品イメージとの相性は非常によいのですが、印刷物が主流だった時代に制定されたもので、現代的な考え方とは方向性が異なっていました。

この段階では、AXIS FontとSST JPを検討し、部内の各メンバーに情報共有。商用のトラックやバスに限定せず、社内の製品全体で統一を考えたいということで、Monotypeに相談しました。

Monotypeに相談

いすゞ自動車からMonotypeに伝えた条件は以下の2つでした。

条件1:機能的な視点

  • 長く使える普遍性
  • コンパクトな骨格、ウェイト違いやファミリー書体の多さ
  • 読みやすさ、文字のつぶれにくさ、メリハリのあるディテール
  • 和文、欧文両方での成立性/和文欧文混在時の調和

条件2:ブランドの視点

  • 「運ぶ仕事」を支える製品やサービス、間接的に社会インフラを支える企業として、信頼、誠実、クリーンなイメージを重視
  • 企業理念「『運ぶ』を支え、信頼されるパートナーとして豊かな暮らし創りに貢献します」
  • 製品をデザインする時に指標にしているIsuzu Design Philosophyの「潔:Clean」「硬:Solid」「動:Emotional」。これらを書体に置き換え、スタンダードなたたずまいの中にやや硬質で整然とした雰囲気を感じられる書体

以下はMonotypeからの提案内容です。

提案1:SSTベースの多言語展開案
→ 日本語書体が華奢で、期待するブランドイメージと乖離していた。

提案2:Avenir Nextベースの多言語展開案
→ 硬質で整然とした雰囲気がブランドと合致。ただし英数字が現代の方向性と合致していない。

両案とも狙いと合致しない点があり、結論に至りませんでした。そのあとMonotypeがカスタマイズを提案。Avenir Nextベースの案を基本に、欧文書体をディスプレイ表示用に適正化することになりました。

カスタマイズフォントの制作

最初のカスタマイズフォント案「Avenir Next for Isuzu(仮)」では、文字の判読性や文字幅などは狙い通りでしたが、硬質で整然とした雰囲気は薄まってしまった印象。

Avenir Nextは、いすゞ自動車のブランドとマッチする硬質で整然とした雰囲気で、幾何学的な形状や線の抑揚の少なさがそのような雰囲気につながっていました。一方、SSTはディスプレイフォントとしての実用性や読みやすさを兼ね備えており、その要因はオープンな形状、スマートなシルエットでした。

いすゞ自動車としては、Avenir Nextが持つ雰囲気とSSTの機能性、この両者のいいとこ取りをしたいと考えました。社内で制作したプロトタイプをベースにMonotypeでブラッシュアップし、書体が完成。いすゞ自動車専用にカスタマイズしたAvenir系の書体なので、「Isuzu AN(エー・エヌ)」と名付けられました。

ウェイトのバリエーション。Light、Regular、Medium、Boldの4ウェイトで、それぞれにコンデンス体を加えた8ウェイトが制作されました。

欧文書体Isuzu ANがAvenir Nextをベースに作られているので、同じくAvenir Nextに合わせて開発された和文書体Shorai Sans(当時はまだ開発中)が和文フォントの候補に挙がりました。Shorai Sansは、幾何学的な印象を持ちながら温かみもあり、視認性が高く、機器の表示にも適した書体です。いすゞ自動車のブランド感との親和性、普遍性とモダンさの調和、Isuzu ANとの相性のよさから、和文書体にはShorai Sansが採用されました。Isuzu ANの4ウェイトと合わせて使えるよう、Shorai Sans全10ウェイトの中から4ウェイトを選んでいます。

実践と今後の課題

製品への反映は現在進行形で推進中です。製品で使用する標準書体として随時反映していく予定。同時に企業ブランドを意識して専用に開発した書体でもあるので、他部署と連携しながら様々な媒体に活用範囲を広げ、最終的には正式なコーポレートフォントに格上げするのが目標です。

多言語展開の例。いすゞグループと提携先のVolvoグループ共同のダイバーシティに関する社内イベントの告知で、Isuzu ANとShorai Sansを使用

福岡空港で実証実験を行った自動運転バスのグラフィック

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